輪読会
輪読会レポート|2020年1月8日|両親の(性別的)関係性が子供の健康を左右する!?・動物園が教育的役割を全うするには・動物園動物に生餌を与えることの抵抗感・ニューカレドニアガラスの道具作りの知性
本日の輪読会は4題でした。
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題目1「Family Structure and Child Health: Does the Sex Composition of Parents Matter?」
家族構成と子供の健康: 親の性構成は重要なのか?
Corinne Reczek, Russell Spiker, Hui Liu, and Robert Crosnoe
Demography. 2016 October ; 53(5): 1605–1630. doi:10.1007/s13524-016-0501-y.
目的:
両親の生物学的な性、および関係性は、彼らの子供の健康に影響をおよぼすか否かを検証すること。
方法:
国民健康聞き取り調査 (National Health Interview Survey: NHIS) によって得られた2004年から2013年のデータを使用した。
「異性の夫婦で、結婚をしている」
「異性の夫婦で、同居をしている」
「同性の夫婦で、結婚をしている」
「同性の夫婦で、同居をしている」
の4つのグループに分類し、それぞれの家庭の子供の健康度合いを比較した。
結果:
両親が異性夫婦か同性夫婦かに関わらず、同居よりも結婚をしていた方が、その子供の健康状態は高いことが示された。
虎太郎所感:
着眼点がすごく面白い研究でした。
両親の関係性 (仲がいいか悪いか) が子供たちの健康に影響をもたらすことは容易に想像できますが、『結婚』というイベントの有無が関わっている、というのは驚きでした。
「結婚というイベント」→「?」→「健康に悪影響」の?部分をもうちょっと読み込まないと、と思いました。
題目2「An Exploratory Study of Zoo Visitors’ Exhibit Experiences and Reactions 」
動物園来園者の経験と反応の探査的研究
Jerry F. Luebke and Jennifer Matiasek
Zoo Biology 32: 407–416 (2013)
目的:
動物園に来園した時の、来園者の認知および感情的な反応が、展示物への興味関心にどのような影響をおよぼすかを明らかにすること。
方法:
動物園に来園していた825人の被験者が、
「熱帯地域」
「沼」
「海岸
」
「地元の野生動物が生息している荒野」
のいずれかの場所を観覧している時に、実験者がアンケート調査を実施した。
アンケートの内容は、「環境や動物に関する関心・知識・懸念」などに関するものであり、すべての質問が7段階評価であった。
結果:
来園者の環境や動物に対する意識や態度には「楽しさ」という要素が最も影響をおよぼしており、「楽しさ」が高いほど、動物をよく観察する傾向にあった。
また、来園者の「認知的反応」「感情的反応」も、動物を観察することに影響をおよぼしていた。
虎太郎所感:
なんか、簡単なようで、上手く読み取れない研究でした。意義深いのは分かるのですが、。
動物園における『教育的役割』に焦点を当てた研究で、「来園者が動物を観察する」→「『楽しさ』『感情的反応』の上昇」→「環境や動物について思考をする」という流れになる、ということだと思います。
だからこそ、まず動物の姿を見れるようなレイアウトにして感情を想起させることが、教育的な意識や思考のサポートになる、ということなのかなぁと。
面白い研究だなぁと思いました。
題目3「Attitude of zoo visitors to the idea of feeding live prey to zoo animals」
動物園動物への理想的な生餌給餌
Raymond Ings, Natalie K. Waran, Robert J. Young
Zoo Biology, 1997, Volume 16, Issue 4
目的:
動物園動物に対して生餌を与えることを目指し、動物園来園者に対する意識調査を実施すること。
方法:
動物園に来園した200人に対して、
「トカゲに生きている昆虫を与えること」
「ペンギンに生きている魚を与える」
「チーターに生きているウサギを与えること」
それぞれに同意をするか否かを質問した。
また、回答者の年齢、性別、動物飼育の有無なども聞いた。
結果:
男女にかかわらず、訪問者の過半数が生餌を導入することに同意していた。
トカゲ、ペンギン、チーターの順で、同意する割合は低くなっていった。
また、男性、年配、動物非飼育者、の方が同意しやすい傾向にあった。
虎太郎所感:
結果は、予想通りなのだろうと感じます。
この文献は少々古く、また、イギリスでの結果なので、日本で直近で行われた調査であればもっと違った結果になると考えられます。
来園者の足が遠のかない程度に、動物園動物の福祉を向上させる、絶妙なバランシングポイントを探るのに有意義な研究であると思います。
題目4「Mental template matching is a potential cultural transmission mechanism for New Caledonian crow tool manufacturing traditions」
メンタルテンプレートマッチングは、ニューカレドニアガラスの道具作りの伝統に対する、潜在的文化伝達メカニズムである
S. A. Jelbert, R. J. Hosking, A. H. Taylor & R. D. Gray
Scientific Reports | (2018) 8:8956 | https://doi.org/10.1038/s41598-018-27405-1
目的:
ニューカレドニアガラスの道具を作る能力は、メンタルテンプレートマッチングの認知プロセスを通じて文化的に伝達しているか否かを調べること。
方法:
供試個体は8羽の野生のニューカレドニアカラス。
「正方形の白い紙を自動販売機に落とすと報酬がもらえる」ことを学習させ、さらに、特定のサイズ「小さい紙 (15×25㎜) と大きい紙 (40×60㎜)」だけ報酬がもらえることを学習させた。
その後、大きな画用紙を1枚だけ設置し、カラスは報酬を得るためには、その大きな画用紙を自ら「小さい紙か大きい紙」に分割しなければいけない状況を設定した。
この時の、カラスの道具作りの様子を観察した。
結果:
8羽中6羽が、報酬が得られるサイズの大きさに紙をちぎることが出来ていた。(出来ていない2羽は、まだ幼いヒナであった)。
虎太郎所感:
分野が違うゆえに、むずかしい内容でした。
メンタルテンプレートマッチングとは、「抽象的に記憶したものを利用して、具体化を行う能力」みたいなかんじでしょうか。
非常に高度な知的活動なようですが、この研究の結果と「カラスの道具作り能力の文化的伝達」との関係性がちょっと読み取り切れませんでした。
https://www.excite.co.jp/news/article/Gizmodo_201807_crow-wise/
↑↑ここの記事で、分かりやすく研究内容載ってます!!
輪読会レポート|2019年12月11日②|入浴時のアロマオイルは、認知機能や睡眠の質を良くする?・猫に食べさせることで、猫アレルギーを防ぐことが可能なフードが開発された
続きの、3~5題目です。
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題目3「Evaluation of the effect of aroma oil as a bath salt on cognitive function」
バスソルトのようなアロマオイルが認知機能に及ぼす影響の評価
Minoru KOUZUKI, Satoshi KITAO, Takeshi KAJU and Katsuya URAKAMI
PSYCHOGERIATRICS 2019 , doi:10.1111/psyg.12481
目的:
非薬理学的療法として、バスソルトを用いたアロマテラピーが認知機能の改善に影響をもたらすか否かを検証すること。
方法:
アロマの種類として、ラベンダーとスイートオレンジの混合物の匂いを使用した。
(これらの匂いは、先行研究で認知機能への影響が指摘されている。)
0.1%・0.5%・1%の配合率のアロマオイルを準備し、24週間 (観察機関として前後に4週間)、入浴時にアロマオイルを使用してもらった。
被験者は、アルツハイマー型認知症患者10名、軽度認知障害MCI25名、計35名とした。
睡眠の質の評価には「Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI-J)」
認知機能の評価には「Touch Panel-type Dementia Assessment Scale (TDAS)」
などを用いた。
結果:
睡眠の質、および認知機能において、統計学的に有意な影響はみられなかった。
虎太郎所感:
お風呂のサイズが被験者ごとに異なっているため、臭気を吸引する割合にも違いが生じていたと考えられ、その影響が考えられる、と述べられています。
入浴時に認知機能へ介入ができることが示されれば、けっこうコスパの良い認知症予防活動になるのではと考えられます。ぜひ、効率的な入浴時のアロマオイルの使い方が開発されればな~と思います。
題目4「Reduction of active Fel d1 from cats using an antiFel d1 egg IgY antibody」
抗Fel d1 卵IgY を使用することによる、猫のFel d1の減少
Ebenezer Satyaraj PhD | Cari Gardner PhD | Ivan Filipi PhD | Kerry Cramer PhD | Scott Sherrill MS
Immunity, Inflammation and Disease. 2019;1–6.
目的:
猫のアレルゲンである『Fel d1』に対して、鳥類免疫グロブリン『IgY』が効果発現を示すかを検証すること。
方法:
106匹の短毛のイエネコを使用した。
実験では、2週間の観察の後、10週間ごとに『抗Fel d1 IgY』が含まれたフードを与えられた。
肩と脇をブラシすることでサンプル100㎎を採取し、サンプル内のFel d1の量をELISA法によって定量化した。
結果:
『Fel d1』の数値は、フードを食べることで減少することが確認された。
また、そもそもの数値が高い猫の個体群は、その減少率が顕著であった。
虎太郎所感:
飼い猫にフードを食べさせることで、飼い主の猫アレルギーの発現を抑えられる、という研究です。
この研究は、メディアでも結構話題にされていました。
猫側への介入で人側が効用を得る、というプロセスに嫌悪感を持つ人もいるようで、賛否両論があるようです。わたしはあまり嫌悪感を感じないのですが。
機会があれば、別記事で書こうと思います。
とても意義のある研究だと思います。
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輪読会レポート|2019年12月11日①|ペットは認知機能の低下を防ぐ・セラピードッグは入院中の子供の不安を忘れさせる
本日の輪読会は5題でした。
まず、1~2題目です。
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題目1「Examining Differences between Homebound Older Adult Pet Owners and Non-pet Owners in Depression, Systemic Inflammation, and Executive Function」
うつ病、全身性炎症、実行機能における在宅高齢者のペット所有者と非ペット所有者の違いの調査
Sandy Branson, Lisa Boss, Stanley Cron & Duck-Hee Kang
ANTHROZOÖS, 2016, VOLUME 29, ISSUE 2, PP. 323–334
目的:
高齢者における、ペットの飼育がもたらす生理面、心理面への影響を調査すること。
また、それらの影響は、ペットに対する愛着度と関連性があるかを調べること。
方法:
ペット所有者の48名と非所有者40名の合計88名を対象とした。
うつ症状の測定には Geriatric Depression Scale (GDS) Short Formを、
実行機能の評価としてCLOX1を、
全身性の炎症を計測するために、唾液中のC-reactive protein (CRP) (C反応性タンパク質) を測定した。
ペットに対する愛着度は、10段階で回答してもらった。
結果:
ペット所有者は、非所有者と比べて、実行機能の数値が高かった。
うつ症状とC反応せタンパク質は、どちらも有意な差はなかった。
また、被験者48名中35名が、愛着度を最大の10と評価をしており、ペットの愛着度が高い被験者は、高い実行機能を示した。
虎太郎所感:
うつ症状は有意差がないものの、p値が0.08と、違いの傾向はありそうなものでした。
Cタンパク質で差が見られなかったのは、やはりアッセイ作業が難しいからなのだと感じます。
かなりの人数をとっているので平均値には差が見られていますが、標準偏差が高くて有意差が出てないようです。残念、、。
題目2「The Effect of a Pet Therapy and Comparison Intervention on Anxiety in Hospitalized Children」
入院中の子供の不安に対するペット療法の効果と比較的介入
Katherine Hinic, PhD, RN, CNE, CNL, Mildred Ortu Kowalski, PhD, RN, NE-BC, CCRP, Kristin Holtzman, CCLS, Kristi Mobus, BSPH
Journal of Pediatric Nursing 46 (2019) 55–61
目的:
入院している子供たちの不安症状に対して、動物介在療法は効果があるのかを検証すること。
方法:
93名の6~17歳の子供を対象とし、
「ペット療法群」セラピードッグとハンドラーと過ごす。
「対照群」簡単なパズルを行う。
の2つの群で比較を行った。
どちらの群も、実験は8~10分とした。
セラピードッグの種類は、ラブラドルレトリバーとゴールデンレトリーバー1頭ずつであった。
不安状態の測定には、State-Trait Anxiety Scale for Children (STAIC)(特性状態不安測定尺度こども版) を使用した。
結果:
どちらの群も、状態不安が減少した。
そして特に、ペット療法の方がその減少率が高かった。
虎太郎所感:
非常に明瞭な結果でした。
不安症状の改善には「何かに没頭して不安の根源を忘れる」ような作業が効果的なようで、この研究ではパズルを採用していました。たしか、ボルダリングとかもよかった気がします。
いずれにせよ、動物もまた、そのような「意識や注意を良い意味でそらす」作用があるのだと感じます。
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どちらの研究も、動物が健康面への影響を分かりやすく示しているものでした。
とくに、認知的な側面に及ぼす影響はその種類が多様であり、堀がいがある領域だなぁとつくづく感じました。
輪読会レポート|12月4日②|ホーストレッキング中の馬の生理状態は乗り手に影響される?・犬の指さし追従行動は、人の表情に影響される?・多くの人が、猫の感情を読み取ることが可能
前回の続きで、3~4題目です。
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題目3「Influence of riders’ skill on plasma cortisol levels of horses walking on forest and field trekking courses 」
森林および野外のトレッキングコースを歩いている馬の血漿コルチゾールレベルに対する、乗り手の技術の影響
Ayaka ONO, Akihiro MATSUURA, Yumi YAMAZAKI, Wakako SAKAI, Kentaro WATANABE, Toshihiko NAKANOWATARI, Hiroshi KOBAYASHI, Mami IRIMAJIRI and Koichi HODATE
Animal Science Journal (2017) 88, 1629–1635
目的:
レクリエーション活動として行われるホーストレッキングにおいて、そのコースの環境、そして乗り手の技術は、馬のストレス反応に影響を及ぼすかを検証すること。
方法:
合計6頭の馬が実験に参加。
ライダーは3名で、技能が初級・中級・上級と多様にした。
「フィールドコード」と「フォレストコース」の2つのコースを用意し、血漿コルチゾール濃度の比較を行った。
結果:
ホーストレッキングを行った馬のコルチゾール濃度は、ホーストレッキングを行わない対照日と比べて、高い数値を示した。
また、ホーストレッキングが終了してから2時間後には、通常の数値まで落ち着いていた。
一方で、上記の結果は、乗り手の技術、さらにはコースとは無関係であった。
虎太郎所感:
乗り手の技術や、選択するコースに、馬のストレス数値が影響されないというのは、馬の福祉の観点から考えれば非常に好ましい結果と考えらえれます。また、安全にホーストレッキングが行えるという観点からも、有益な情報といえます。
ただ、コルチゾール濃度の上昇自体は顕著にみられているので、ホーストレッキングを実施する回数などは厳格に配慮すべきであると感じます。
題目4「Does affective information influence domestic dogs’ (Canis lupus familiaris) point-following behavior?」
情動的な情報は、犬の方向追従行動に影響をあたえるか
Ross Flom• Peggy Gartman
Anim Cogn (2016) 19:317–327
目的:
飼い主の感情が、犬の探索行動と追従行動に影響をおよぼすかどうかを検証すること。
方法:
実験1では、45匹 (メス23匹) の犬を対象とした。
この実験では、以下の3条件を設定され、実験者は『顔の表情』や『声の質』でその条件を切り分けた。
「感情を示さない (Neutral)」
「Positiveな感情を示す」
「Negativeな感情を示す」
実験では、まず犬の名前をよび、アイコンタクトが交わされたら、犬の目の前にある2つの容器のうち、『餌の入っている容器』の方を指さした。
しかし、「Negativeな感情を示す」条件だけは、『餌の入っていない容器』を指さしてもらった。
実験2では、15匹 (オス8匹) の犬を対象とした。
この実験は、手順はすべて実験1と同様であり、「Negativeな感情を示す」条件のみが行われた。
そして今度は、「Negativeな感情を示す」条件で、かつ、『餌の入っている容器』を指さしてもらった。
結果:
実験1
犬が、餌が入っている容器を選ぶ頻度は、「ネガティブな感情を示す」条件においてのみ有意に低かった。
実験2
犬が、餌を入っている容器を選ぶ頻度は、実験1の結果と比べて有意に高くなっていた。
虎太郎所感:
この結果は、筆者の予想を裏切り(?) 犬は指さし追従行動において、人の声色や表情といっや感情的な要素を見ていない、という結果になりました。
つまり、犬は単純に、指をさした方向、先、に意識を向け、行動を取ることが分かったということです。
これだけでも普通にすごい能力ですね。
題目5「Humans can identify cats’ affective states from subtle facial expressions」
人間はわずかな表情から猫の感情状態を識別できる
LC Dawson, J Cheal, L Niel, and G Mason
Animal Welfare, Volume 28, Number 4, November 2019, pp. 519-531(13)
目的:
人間が、猫の表情からポジティブ、ネガティブな感情をどの程度特定できるのかを調べること。
方法:
被験者はオンライン上で募集された6329人。
彼らに、猫がネガティブおよびポジティブな感情を呈している動画を10本ずつ、合計20本見てもらい、それぞれの動画に対して「猫がポジティブであるかネガティブであるか」を判定してもらった。
結果:
全被験者において、20のビデオのうち平均11.85のビデオで正解した。すなちち59%の正答率だった。
一方で、被験者の13% (797人) は、20のビデオのうち15を超える、非常に高い水準の正答率だった。
また、年齢が若い人、女性、ペットに対する愛着度が高い人の方が、正答率が高いことが示された。
虎太郎所感:
平均を超える水準で正解できているのは、驚きでした!そんなに、猫の表情分かるもんですかね。
また、女性、ペットの愛着度が高い人、が高い正答率であったのは、なんとなく予想できる結果でした。
面白い研究。
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最後の猫の研究、SNSを用いた、現代っぽい研究でいいですよね。
不特定多数の人へ、(なるべく)ランダムな条件で被験者を選択し、ビッグデータをゲットする。すごく効率いい感じ。
(ただ、これ、猫だから答えてくれた側面もあるのかな、、。猫動画好きな人は多いし。これが他の動物だと、こんなにスムーズにいくものかな。もしくは、ゲーム性を高めているから、猫とか関係なくいけるのかな。)