英語になれてない人、また、学術論文になれてない人、そしてその両方の人。英語論文を読むのが非常に苦痛でしょう。
私もそうでした。
ただ、長く大学院生を過ごす中で、徐々に「効率的な読み方」を理解してきました。
この記事では、「英語論文を効率的に読解する方法」について解説します。
1. 英語論文読解をする前の心得
「無駄な労力」は「必要な労力」か?
前々回の記事で説明したとおり、物事にはなんかしらの意義や目的を据えることが重要だと言いました。あなたが輪読会に臨む意義や目的は何でしょうか?
たとえ、あなたの輪読会の意義が何であったとしても、文献を読み込む時は「知識ゼロの状態からスタートする」必要はありません。
そこでこれから、「より効率的に文献を読み解く」ためのコツをご紹介します。
「英語論文」は本当に難解な文章か?
英語論文の中に、理解出来ない文章があったとしましょう。文意が読み取れない理由には、以下のものがあります。
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基本的な英語能力の欠如
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基本単語がわからない
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基本文法がわからない
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専門分野の知識の欠如
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専門用語がわからない
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論文の基本構造や型がわからない
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1の場合、正直、しょうがないです。辞書や参考書などを用いて、勉強するしかありません。ただ、一つ言えるのは、「学術論文を読み解くのにそんな高度な文法知識なんて要らない」ということです。
もちろん、私は「学部生~修士」の間で、基礎的な英語の勉強をし直しました。そのおかげで読解能力が上がったのは確かです。だから、みなさんも時間があれば学びなおすべきだと思います。・・・が、べつに今、「仮定法」や「関係代名詞」のセンター入試問題を解けるかと言われれば無理です。TOEICもぜんぜん解けないと思います。
けれども、「人と動物の関係学」という分野の学術論文なら、10分で概要をほぼ理解できる自信はあります (・・・たぶんね。・・・概要だけね。)。これは、「俺すごいだろエッヘン!」と言いたいわけでは決してありません。「学術論文」とはそういうものだということです。
つまり、「学術論文」には決まりきった「構造や型」があり、それに伴った「読み方のコツ」があるということです。それがすなわち、文意が読み取れない理由の2になります。
では、以降は、この「構造や型」の説明をしつつ、英語論文の読み解きのコツをお伝えしていきます。
2. 英語論文読解に必要な考え方
「アブストラクト理解」のための「本文理解」という意識
まず説きたいのが、「論文を全文理解して発表する必要は微塵もない」ということです。そして一方で、「アブストラクトだけは全文理解しようとする姿勢」が何より重要です。
論文には「Abstract アブストラクト」、いわゆる「要旨」が存在します。このアブストラクトは、(ほとんどの論文共通で) 「序論」→「材料と方法」→「結果」→「考察」の順で文章が綴られています。まずここを理解しておいてください。「学術論文」における、重要な構造の一つです。
そしてアブストラクトは、論文の内容をギュッと数行にまとめているものです。つまり、アブストラクトに書いてある内容は「筆者が一番伝えたいことの凝縮体」になっています。
だからこそ、このアブストラクト部分だけは「1語1句」抜かりなく理解しておかなければなりません。なぜなら、「著者の最も伝えたい部分」を読み取って発表することこそが輪読会だからです。
で、オススメの英語論文読解手順は、以下の通りです。
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「アブストラクトの内容を完璧に理解しようと読みこむ」
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「文意が読み取れない文章に出会う」
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「『文意を読み取るため』に本文を部分的に読み解く」
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この流れで読み解こうとすると、「効率性・能動性」がぐっと上がります。なぜかというと、「答え探し」や「取り扱い説明書の確認」みたいな感覚を持てるようになるからです。
「読む」「理解する」のではなく「探す」「掴む」感覚
要旨に書かれた内容だけでは輪読会はこなせません。なぜなら、「情報量がすくない」からです。
それぞれの論文にもよりますが、「研究の背景」「詳しい実験・調査の手順」「考察の丁寧な論理説明」などがアブストラクトでは欠けています。感覚的には、序論や考察など「論理的な説明部分」が特に省かれていると思います。なぜなら、丁寧な論理構造で説明しようとすると、豊富な文章量や「過去の文献」が必要になるからです。
では、それなのになぜ「アブストをまず理解する」というやり方を推奨するかというと、「研究の肝」の部分をまず少ない情報量で理解したほうが理解しやすいからです。
論文は情報量の多い文章群です。ゆえに、「著者の最も伝えたい部分」を本文全体から探し出して理解するのは少し骨が折れます。特に、論文にまだあまり触れていない段階では、特に困難です。だからこそ、まず「アブストラクトを完璧に理解」しようと苦心し、それ以外の必要な情報を「本文から探し出す」という手順を取ったほうが、論文は読解しやすいのです。
「アブストラクト以外の必要な情報」というのは言い換えれば、「アブストラクトを理解しようとした時に『障害となる部分』」といえます。さらに言い換えると、『アブストラクトを理解しようとする時に必要な情報・理解しおかなければダメな点・浮かんでくる疑問点』などなど、挙げれば切りはありません。が、できる限りたくさんあげてください。言語化してみてください。そして、その疑問を「本文」から探し出すように『部分的に絞って』本文を読み込んでください。
例えば、アブストラクトの初めの方に書かれた文章であれば、本文の「Introduction序論」に書いてあるはずです。一方で、アブストラクトの終わりの方に書かれている文章であれば、「Discussion考察」に書かれているはずです。アブストラクトの多くは「本文の順序」に沿って構成されています。本文における読むべき部分に、「当たり」を付けて読んでみましょう。
このように、文章構造を意識しながら「まずアブストラクトを理解」し、つまむように「本文を部分的に読む」のが理想です。決して「本文全体をまずすべて訳す」ようなことはやめましょう。輪読会には時間制限もありますし、論文全てをくまなく説明するのはそもそも不可能です。
では続いて、本文の内容を理解するときに参考になる「英語論文の構造特徴」を2つほどお教えします。
英語論文の構造特徴①「トピックとサポート」
長大で複雑な論文の中で、「序論」と「考察」は特に読み解くのが難しい部分と言えます。その理由の一つとして挙げられるのが、節などで文章が区切られていないという点です。(区切られているものもありますが)
一方で、「材料と方法」や「結果」は、節によって文章が区切られています。そしてその節ごとにタイトルが付いています。つまり、「そのタイトルに関係することが書かれているんだなぁ〜」と当たりをつけることができるため、文章の理解が大きく捗ります。
では、このような節がない「序論」や「考察」を理解するためにどうするかというと、「段落」一つ一つに「タイトル」があるように意識する(捉える)ように読むことをおすすめします。
英語の論文は、各段落ごとに「その段落で伝えたい1つのメッセージ」があります。それを明確に示した文章を、トピックセンテンスと言ったりします。このトピックセンテンスを探りながら読むことを意識すると、「『この段落』で著者が言いたいこと」が見えてきます。
そしてもう一つ大切なのが、その文章が「著者の意見」なのか「他者が証明・提言した事実か」なのかを見極めることです。
英語論文の構造特徴②「意見と事実」
木下是雄さんの有名な著書『理科系の作文技術』でも解説されていますが、学術の文章は「意見と事実が切り分けられていること」が超重要です。「客観 (事実)」と「主観(意見)」、のように抽象的に捉え直してもよいです。
なぜ意見と事実の切り分けが大事かというと、学術論文は「過去の文献に基づいてより発展した研究を行う」というのが本質であるがゆえ、「大量の過去の文献 (事実) 」で埋め尽くされており、「自分の考えや主張 (意見) とごちゃまぜになってしまう」ことがあるからです。そのため、文章を読解しているときは、常に「この文章はなんらかの事実?それとも著者の意見?」と意識しながら読み進めましょう。
実は、見極めは比較的カンタンです。文章の終わりに参考文献が付いていた場合、その文章の内容は「事実」になります。一方、付いていない場合は「意見」となります。
※ただし、一般的な共通認識として認められている内容は、たとえ「事実」であったとしても「参考文献」が省かれていることもあります。[例]猫は4つ足で歩く動物である
ここの認識はすごく重要です。今読み解こうとしている文章が、「事実」が「意見」なのかによって、文意が変わってくる場合があるからです。
例えば、あなたが「猫は人を幸せにする」という文章を目にしたとします。もしそれが「事実」だった場合、「過去の誰かが『そのような主張内容』を唱えられる研究結果を示した」ということが読み取れます。一方で「意見」だった場合、「その著者がその論文の実験結果によって『そのような主張内容』を明らかにした」ということになります。ここのニュアンスの違いを意識しながら文章を読んでいきましょう。
この「事実と意見の切り分け」は、みなさんがこれから取り組む「序論・考察」の執筆時にも必要な考え方になります。今のうちに、必ず意識するようにしましょう。
では以降は、英語論文を翻訳し、読み解く「具体的な作業のコツ」を紹介していきます。
3. 英語論文読解に必要な作業方法
ショートカットキーはホント大事よ
輪読会の意義に「①英語力向上」を掲げているのであれば、まず自力で翻訳するのをおすすめします。ただ、自力では限界があると思います。そこで、Google 翻訳を活用しましょう。
まず、アブストラクトはを読んで理解できなかった部分から当たりをつけ、本文の中から「読み解こう」と決めた文章を見つけます。1文1文翻訳かけるのはダルいんで、1,2段落ゴソッと翻訳かけたほうが効率的ですよ。
で、効率的な翻訳手順は以下のとおりです。
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訳したい部分を選択する
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Ctrl + C でコピーする
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Ctrl + V で「URL欄」に一度ペーストする
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Ctrl + A で全選択して再度Ctrl + C でコピーする
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最後にGoogle翻訳にぶちこむ
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なぜ一度「サイトのURL欄」に入れるかというと、PDFからコピーすると「改行された状態」でペーストすることになってしまい、変な英語文章に翻訳されてしまうからです。この操作を一度経由するだけで、無駄な作業がへり、翻訳結果もちゃんと出ます。
このちょっとした工夫についてですが、PDFのみについての話になります。Web上のものであれば、おそらく普通に「Ctrl + C コピー」「Ctrl + V ペースト」で翻訳かけられると思います。この点から考えると、オープンソースの 電子ジャーナルがいかに使いやすいかが分かります。
で、Google翻訳を使っても文意が理解できない時、まず疑って欲しいのはテクニカルターム、いわゆる「専門用語」の有無です。その研究分野でしか使われない「用語」や「表現」の場合、翻訳結果が不明確な文章になることも多々あります。
そんな時はまず、その英語表現を『文書内検索 Ctrl+ F』で検索してみましょう。「序論」「材料と方法」の段落で、その専門用語を説明してる文章が見つかるかもしれません。
もしそれでも分からなければ、丸々ググってみましょう。『〇〇 とは?』『〇〇 意味』『〇〇 研究』のように日本語と組み合わせてググると、その用語についての「日本語サイトの情報」が手に入りやすくなります。また、『〇〇』 とともに『その研究領域の用語』を一緒に検索すれば、よりヒットしやすいかもしれません。
見つからない時は、先生や院生に聞いてみてください。このような部分こそ、悩むのが時間の無駄になりやすいので気をつけてください。
「ソフトウェアツール」もたくさん使いましょう
私が重宝してるのは、「Google Chromeの拡張機能」です。
「Google Chrome」とは、Googleという検索エンジンを自分独自にカスタマイズできる機能のことを指します。そしてこのGoogle Chromeで非常に有能な機能が、「オプション的にパワーアップさせる」『拡張機能』と呼ばれるものです。
『拡張機能』は膨大な数があり、その中から自分好みの機能を選び、自由にカスタマイズすることが可能です。ここでは、英語論文読解に有益な3点を紹介します。
拡張機能①Weblio辞典
英単語に「マウスのカーソル」を合わせるだけで、意味が画面表示されます。もういちいち辞書を引く必要はありません。
拡張機能②Google 翻訳
Googleはホントにすごいですね、、。翻訳作業も簡易化できます。いちいちGoogle 翻訳サイトを開かなくても、サッと翻訳内容が確認できます。
※上記2つはウェブブラウザ上で力を発揮するのものなので、「PDF資料には無益」であることを注意してください。残念。この点から考えるても、オープンソースの電子ジャーナルは使いやすいですねぇ、、。
拡張機能③Unpaywall
全文が見れるページに飛びやすくなります。とても便利です。