輪読会レポート 2019年7月24日 | 音楽療法・目隠し乗馬・猫と馬のクロスモーダル的認知・ペットとPTSD・馬の情動認知

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本日の輪読会は6題でした。

 

~~(=^・・^=)~~

題目1「A Study into Blood Flow, Heart Rate Variability, and Body Surface Temperature While Listening to Music」
音楽を聴いている間の、血流、心拍変動、体表面温度に関する研究

Kenichi Itao, Makoto Komazawa, Hiroyuki Kobayashi

Health, 2018, 10, 181-188

目的:

音楽が人体におよぼす生理的影響を調べること

方法:

被験者は12人の健康な女性(20・30・40代の女性を4人ずつ)

『クラシック』
『ヒーリング』
『ジェイポップ』
の3種類を3分間聞かせた。

聞かせている間の
『指先の血流』
『体表面温度』
『心拍・自律神経』
を測定した。

結果:

『クラシック音楽』を聴いたときのみ、指先の血流量が上昇した。

どの音楽の種類も、聞いている間の交感神経は減少した。

『クラシック音楽』『ヒーリング音楽』はともに、体表面温度が上昇した。
『クラシック音楽』は特に上昇が大きかった。

虎太郎所感:

非常に古典的な研究のように感じました。
クラシック音楽がもっともリラックス効果が見られた、という点も、仮説通りかと思います。

また、記事では結果を記載しませんでしたが、被験者の年代によって音楽の種類の好みが異なっており、それによって結果も変わってくるようです。
ここも恐らく仮説通りかと思うので、面白みは小さめの研究でした。

 

 


題目2「The effects of horse riding simulation exercise with blindfolding on healthy subjects’ balance and gait」
目隠しをした乗馬シミュレーター運動がおよぼす、健康な被験者のバランスと歩行への影響

Hyun Gyu Cha, Byung Joon Lee, Wan Hee Lee

J. Phys. Ther. Sci. 28: 3165–3167, 2016

目的:

目隠しをした状態で乗馬シミュレーターの乗った時、健常者のバランスや歩行におよぼす影響を明らかにすること

方法:

『目隠しをした群』
『しない群』
を用意し、

それぞれに週に5回、乗馬シミュレーターに20分間乗ってもらい、これを4週間つづけた。

結果:

どちらの群も、バランス能力における要素である『静的バランス』『動的バランス』、『歩行数』などが有意に改善した。

さらにそれらの項目は、『目隠しをした群』において改善率が高かった。

虎太郎所感:

「予測のできなさ (フィードバック運動)」が、体幹などのバランス能力に影響をおよぼすようです。
このフィードバック制御とフィードフォワード制御の違いはとても面白い考え方で、演繹性の高い概念のように思います。

フィードバック制御とフィードフォワード制御とは?☞

>>>>> 脳情報発信所 <<<<<
脳に関連したいろんな情報を発信してゆきたいhttps://blog.goo.ne.jp/mayumeto_1948/e/bb59e0f83164734db5129fb56d9220a0

研究の取り組み観点自体は非常に面白いのですが、乗馬シミュレーターの『動き』自体は規則的なのではないでしょうか?
となると、もっとフィードバック的要素を高めていけば、体幹への効果はより高まるのでしょうか。

面白いですね。

 

 


題目3「Cats match voice and face: cross‐modal representation of humans in cats (Felis catus)」
猫は音声と顔を一致させる:猫による人のクロスモーダル的表現

Saho Takagi, Minori Arahori, Hitomi Chijiiwa, Atsuko Saito, Hika Kuroshima, Kazuo Fujita

Animal Cognition 29 April 2019
https://doi.org/10.1007/s10071-019-01265-2

目的:

猫は、人の声 (聴覚刺激) と表情 (視覚刺激) を「クロスモーダル的」に認識しているかどうか、を調べること。

クロスモーダルとは☞

本来別々とされる知覚が互いに影響を及ぼし合う現象。赤い色を付けた甘味料が入った飲み物はイチゴ味を連想させるなどの例が知られる。

https://dictionary.goo.ne.jp/jn/292686/meaning/m0u/
goo辞書より

方法:

『一般家庭』で飼育されている44匹の猫、『猫カフェ (計5か所のお店)』にいる43匹の猫を対象に実験を行った。

実験の流れは、

まず、1秒ごとに1回の音声刺激 (飼い主 もしくは 見知らぬ人の声によるその猫の名前) が、計4回にわたり呈示される。
その後、7秒間にわたり視覚刺激 (飼い主 もしくは 見知らぬ人の顔) が提示される。

その視覚刺激を提示している間の、猫の行動を解析した。

この時、音声と視覚刺激が、
『一致条件 (どちらも飼い主 もしくは 知らない人)』の場合と
『不一致条件 (どちらかのみ飼い主)』の場合で、
猫の行動に違いが生じるのかを調査した。

結果:

『一般家庭』の猫では、不一致条件と一致条件に違いがなかった。

一方『猫カフェ』の猫では、不一致条件で、より長く画面を関心を示し、注意を向けた。

虎太郎所感:

この手の研究では『期待違反理論』という概念を元にして結果を解釈していきます。

期待違反理論とは?☞
期待に反する現象が起こった際に、その対象に注意や関心が向くこと。

あわせて読みたい

Wikipediaより

すなわち、「猫が飼い主の『音声』と『表情』を複合的に認識 (クロスモーダル的認知) している」と仮定した場合、不一致条件は猫にとって期待に反した現象であるため、一致条件よりも注意関心が向くということです。

この研究では猫カフェの猫でのみクロスモーダル的な結果が得られました。

非常に興味深い結果であり、いろいろな解釈が可能かと思います。

筆者の考察では「猫カフェの猫の方が、日々様々な人間と触れ合うことになるため、そのような識別能力が鍛えられた」というように述べられており、猫がその能力を持っていつつも、(個体) 自身がおかれた状況によってその能力を活用するか否かをコントロールしている(というか、めんどくさくてやらない?笑)といった解釈は非常に面白く感じます。

一方で、「飼い主と飼い猫のような『密な』関係性があるからこそクロスモーダル的認知が成立する」のではないかとも感じますし、、。猫という実験実施がそもそも難しい動物では、設定した実験プロトコルに結果が大きく左右されることもあります。

様々な研究プロトコルから実験を行い、複合的に結論を考察していく必要があるのかなと感じました。

 

 


題目4「Cross-modal perception of human emotion in domestic horses (Equus caballus) 
馬による、人の情動のクロスモーダル的認知

Kosuke Nakamura, Ayaka Takimoto-Inose & Toshikazu Hasegawa

SCIENTIfIC REPOrTS | (2018) 8:8660 | DOI:10.1038/s41598-018-26892-6

目的:

馬は、飼い主の声と表情を「クロスモーダル的」に認識しているかどうか、を調べること

方法:

実験プロトコルは以下の通りで、

まず15秒間の空白画面が呈示され、
30秒間視覚刺激 (見知らぬ人 もしくは 世話をしている人) が呈示され、
また15秒間の空白画面が呈示され、
音声刺激が呈示された。

音声刺激が呈示された後の、馬の

『注視時間』
『反応速度』
『心拍数』

を測定した。

また、実験で提示する刺激は、『ポジティブ条件』と『ネガティブ条件』に分けられ、さらに細かく解析が行われた。

結果:

世話をしている人においてのみ、不一致条件の際に、より長く画面を注視し、画面を見るまでの反応速度も速かった。

また、人の種類にかかわらず、ネガティブな表情の際には、不一致条件で有意な心拍数の上昇が見られた。

虎太郎所感:

題目3と偶然にも同じ研究分野であり、「期待違反理論」から結果を解釈していました。

こちらの研究はさらに複雑で、人の情動の種類でも場合分けをしており、読み解くのが結構大変でした、、。

ただ、こちらの研究においても実験時の制限がいくつか記載されており、やはり動物を対象にした心理実験は難しいのだなと感じました。

 

 


題目5「Effect of Pets on Human Behavior and Stress in Disaster」

Aki Tanaka, Jun Saeki, Shin-ichi Hayama and Philip H. Kass

Frontiers in Veterinary Science |  2 April 2019 | Volume 6 | Article 113

目的:

災害 (東日本大震災) に起因する心的外傷後ストレス障害 (Post Traumatic Stress Disorder:PTSD) のスコアに及ぼす、ペット飼育の影響を知らべること。

方法:

被災者216人に対して、アンケート調査を行った。

被災者は以下の4グループに分けられた。

『災害時に1匹以上ペットを飼っていた人』
『災害時に飼っていなかった人』
『災害の4.4年後に1匹以上ペットを飼っていた人』
『災害の4.4年後に飼っていなかった人』

グループごとにPTSDのスコアを比較した。

結果:

全体として、災害発生から4.4年後方が、発生時と比較してスコアが低くなっていた。

そして、災害発生時では、ペットの飼育の有無によってスコアに差はなかった。
しかしながら、災害から4.4年後においては、ペットを飼っている人の方がスコアが低かった。

虎太郎所感:

災害発生時においては、ペットを飼っている人の方が若干スコアが高かったようです。
この結果や、その他の回帰分析の結果を踏まえ、災害発生時にはペットが多少のリスク因子になることを筆者はすこし懸念しています。

保護する対象があるということは、そういったネガティブ面も少なからずついてきてしまうようです。

しかしながら、時間の経過によってそのリスク因子が、ストレス減少のセラピー因子に変わっていくことが分かります。

明瞭で理にかなった結果のように見えました。

 

 


題目6「Domestic horses (Equus caballus) discriminate between negative and positive human nonverbal vocalisations」
馬による、人の非言語コミュニケーションのネガティブとポジティブの識別

AmyVictoria Smith, Leanne Proops, Kate Grounds, Jennifer Wathan, Sophie K Scott & Karen McComb

SCIEntIfIC REPOrTS | (2018) 8:13052 | DOI:10.1038/s41598-018-30777-z

目的:

馬は、人の音声からその感情を読み取ることができるか、を調べること

方法:

28頭の馬に対して、

『ネガティブな音声』:笑い声
『ポジティブな音声』:唸り声

を聞かせ、その際の

『凍結行動 (Freeze Behavior)』:体がの動きを停止する行動
『耳の動き』

などを観察した。

※Freezing behavior (凍結行動)とは☞

主に被捕食動物で観察される行動で、ストレスを受ける直前直後に見られる。

Wikipediaより https://en.wikipedia.org/wiki/Freezing_behavior

結果:

『ネガティブな音声』を聞いた際に、凍結行動の時間が長かった。

『ポジティブな音声』を聞いた際に、耳の動きが大きくなった。

虎太郎所感:

人間の感覚でとらえると、「警戒状態」であるからこそ「耳をたくさん動かして情報を得よう」とするのではないかなぁと思いますが、逆の結果でした。「敏感に周囲の情報を得よう」とするからこそ、集中するために動きを抑えるのでしょうか。

ちょっと、不思議な感じでした。

 

~~(=^・・^=)~~

 

今回は、動物の行動心理学的な研究が多くて、専門用語の理解に少し苦労しました。

やはり面白い学問分野なので、勉強になりました。

 

発表、お疲れ様です。

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