猫の飼い主さんにとって、そしてその猫ちゃんにとって、動物病院はストレスを感じやすい場所であるといえます。可能な限り、猫ちゃんのストレスを緩和することで、よりスムーズに診療を行えることを願うばかりだと思います。
そしてその願いは、実際に診療を行う獣医師の方々も同様です。
この記事では、猫の顔から分泌されるフェロモンを用いることで、猫の診療時のストレスを和らげることが出来るのかを検証した論文を紹介します。
もくじ
■文献情報
〇題目
Improving the feline veterinary consultation: the usefulness of Feliway spray in reducing cats’ stress
〇著者
Pereira, J. S., Fragoso, S., Beck, A., Lavigne, S., Varejão, A. S., & da Graça Pereira, G.
〇雑誌
Journal of Feline Medicine and Surgery,(2016) 18(12), 959–964.
■研究概要 (序論~方法)
〇背景
動物病院は、多くの猫にとってストレスを感じやすい環境です。
そのストレスを少しでも緩和するための方法として、匂い成分を用いる方法が知られています。
猫の顔面の臭腺には5種類のにおい成分 (F1~F5) があると言われています。
その内のF3成分は、猫の行動や生理的な部分に変動をもたらし、いわゆるストレス緩和の役割を果たすことが知られています。
そのF3成分を人工的に作って商品化したものが、Feliway(フェリウェイ) と呼ばれるものです。
〇目的
Feliwayが、動物病院診療時の猫のストレスを緩和し、ハンドリングがしやすくなるかを確かめること。
そして、飼い主と獣医と猫、この3者の関わり合いを手助けし、猫の福祉を向上させるための方法を考えること。
〇被験者情報
26週齢 (半年) 以上の猫87匹
〇評価方法
猫のストレス状態を測るために、以下の指標を用いた。
・キャットストレススコア (CSS)
→ 猫の体の部位の状態から、ストレス状態を7段階で評価
・ハンドリングスケール
→ ハンドリングのしやすさを、5段階で評価
どちらも、数値が低い方がストレスも低いということになる。
〇実験・調査方法
「Feliwayを散布した診察台」
「プラセボ (偽薬) を散布した診察台」
の2種類を用意し、それぞれの台での診療中の猫の様子を観察した。
■研究概要 (結果~考察)
〇メインで得られた結果
Feliwayを散布した診察台を用いた時の方が、CSSの数値が低かった。
ハンドリングスケールも、数値は低いものの、統計学的な有意差は見られなかった。
〇面白い・特筆すべき結果
飼い主が「ハンドリングしやすい」「いつもよりリラックスしている」と回答した割合は、Feliwayを散布した台を使用した場合の方が多かった。
〇筆者の意見・主張
Feliwayは、診療時の猫のストレスを緩和し、より診療をスムーズにするといえる。
液体を散布するだけなので実施が非常に楽であり、活用がしやすいものといえる。
■感想と転用
〇 厳格な調査
この研究では、プラセボ群を用いた2重盲検法を採用しています。
つまり、診療する獣医師も、飼い主さんも、実験者も、「その診察台に散布された液体がFeliwayかプラセボかを誰も知らされていない」ということです。
主観が入りやすい行動評価において、この実験デザインは必須なのかなと思います。
行動観察としては素人の飼い主さん (猫の様子に関しては玄人だけど) の目線でも、猫の行動の違いを検出できたっていうのは、Feliwayの効果の高さが伺えます。
〇 誰でも・いつでも・どこでも
著者も言っていますが、「スプレーするだけ」なので使用方法がとても簡単です。子供でもできます。
そして、主観が混じりやすくて方法にブレが生じやすい定性的な手法 (猫に向かってまばたきをする・優しく声を掛ける、とか) とは違い、客
また、猫側へのアプローチ (猫の首根っこをつまんでおとなしくする、など) でもなく、あくまで環境側へのアプローチになりますので、その点もより猫の福祉の向上に準じた手法なように感じます。