本日の輪読会は6題でした。
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題目1「Animal-assisted therapy used for anxiety disorders in patients with learning disabilities: An observational study」
学習障害患者における不安障害に対する動物介在療法:観察的研究
F. Giuliania, M. Jacquemettaz
European Journal of Integrative Medicine 14 (2017) 13–19
目的:
犬の存在が、不安症的学習障害の患者の不安レベルに影響をおよぼすかどうかを確かめること。
方法:
実験の流れは、まず、被験者に対してボーダーコリーとの30分間の触れ合いセッションをじっしする。
その前後で、「不安スコア尺度(Sate-Trait Anxiety Inventory: STAI)」をもちいて評価をおこなった。この評価は、半構造化面接として、インタビュー形式で行われた。
半構造化面接とは
☞ 「半構造化面接の定義・目的とメリット・デメリット・注意点とは」
(参考:https://mitsucari.com/blog/semi_structure_interview/)
そして、その評価時に
『犬がいる』か
『いない』か
によって点数に差が生じるのかを調べた。
結果:
犬との30分のセッションを行った後、STAIの評価をする際に『犬がいる』群のみで、不安スコアの有意な減少が見られた。
さらに、この犬の存在の効果は、男性被験者のみで見られた。
虎太郎所感:
尺度の結果が環境要因によって左右されており、犬の存在がその影響を緩和させる(逆に、効果を正の方向に促進??)ことが示されました。
犬の存在がおよぼす心理的健康効果に驚きますが、尺度がそのような外部影響因子にこうも左右されてしまうという点の方が気になってしまいました。
実験を行う際には、アンケート等の実施における外部刺激の統制が必要不可欠であると、あらためて実感しました。
題目2「Therapeutic effects of dog visits in nursing homes for the elderly」
高齢者介護施設への犬の訪問による療法効果
Karen THODBERG, Lisbeth Uhrskov SØRENSEN, Janne Winther CHRISTENSEN, Pia Haun POULSEN, Birthe HOUBAK, Vibeke DAMGAARD, Ingrid KESELER, David EDWARDS and Poul B. VIDEBECH
PSYCHOGERIATRICS 2016; 16: 289–297
目的:
高齢者に対する訪問ふれあい型アニマルセラピーの、睡眠や心理面への健康効果を実証すること
方法:
デンマークの特別養護老人ホーム4件の、移住者計100名を対象に行った。
『本物の犬(大型犬)』
『ロボットアザラシ(パロ)』
『ぬいぐるみの猫』
の3種類を使用し、6週間、週に2回の頻度で活動をおこなった。
MMSE(Mini-Mental State Examination) :精神状態を測る尺度
GBS(Gottfries-Bråne-Steen Scale) :痴呆症状を測る尺度
GDS(Geriatric Depression Scale) :老年期うつ病の程度を測る尺度
加えて、睡眠に関するデータを取った。
結果:
活動を始めて3週間後には睡眠時間が長くなっていた。
しかし、6週間後にはその差は見られなくなった。
MMSE・GBS・GDSの数値は、6週間後には減少した。
しかし、活動の種類によって差は見られなかった。
虎太郎所感:
全体としてポジティブな結果のように思われます。
しかしながら、活動の種類によって差が大きく見られないとなると、「動物が」というより、「活動を行うこと自体 (そもそも動物じゃなくても、外部の人が来てなんかしてくれる、という刺激) 」が効用をもたらしているのでは、という疑問も出てきてしまいそうです。
題目3「Depression and anxiety in pet owners after a diagnosis of cancer in their pets: a cross-sectional study in Japan」
自分のペットがガンと診断されたあとのうつや不安状態:日本における横断的研究
Yuko Nakano, Masato Matsushima, Azusa Nakamori, Junshiro Hiroma, Eiji Matsuo, Hidetaka Wakabayashi, Shuhei Yoshida, Hiroko Ichikawa, Makoto Kaneko, Rieko Mutai, Yoshifumi Sugiyama, Eriko Yoshida, Tetsuya Kobayashi
BMJ Open 2019;9:e024512. doi:10.1136/bmjopen-2018-024512
目的:
飼育しているペットがガンと診断されたときの、飼い主への心理的影響、予測因子について調べること
方法:
2013年8月から2016年11月の期間において、
『がんと診断されたペットを飼育している犬の飼い主』
『健康な犬の飼い主』の間で、
CES-D (the Center of Epidemiologic Studies Depression Scale): うつ状態を測定する尺度
STAI-JYZ (State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZ):不安状態を測定する尺度
を計測し、
上記尺度に関連する予測因子(年齢や性別など)を調べる。
結果:
『がんと診断されたペットを飼育している犬の飼い主』の方が、うつ状態も不安状態も有意に高いことが分かった。
うつ状態の予測因子として、「仕事をしているか否か」が関係しており、仕事をしていた人の方が数値が高かった。
虎太郎所感:
著者は、「仕事によってペットに十分な時間をさけなかったことによる罪悪感」がうつ状態を促進したと考察しているようです。
面白いのですが、この項目だけだと、結局このうつ状態を軽減するための解決策がなかなか提示できないように感じます。仕事をやめるわけにはいきませんしね。
題目4「Animal Assisted Therapy (AAT) Program As a Useful Adjunct to Conventional Psychosocial Rehabilitation for Patients with Schizophrenia: Results of a Small-scale Randomized Controlled Trial」
統合失調症患者に対する従来の心理社会的リハビリテーションへの有効な手段としての動物介在療法 (AAT) プログラム
Paula Calvo, Joan R. Fortuny, Sergio Guzmán, Cristina Macías, Jonathan Bowen, María L. García, Olivia Orejas, Ferran Molins, Asta Tvarijonaviciute, José J. Cerón, Antoni Bulbena and Jaume Fatjó
Frontiers in Psychology | May 2016 | Volume 7 | Article 631
目的:
統合失調症患者の、症状、生活の質、などに対して、犬を用いた療法がもたらす効果を検証すること
方法:
被験者は24名の統合失調症で入院している患者。
週に2回の活動を6か月間行った。
内容は以下の通り。
『対照群』:体操やスポーツなどのグループワークを行う。
『実験群』:犬との治療セッションを行う。
活動中に測定した項目は、以下の3つ。
PANSS (Positive and Negative Syndrome Scale):陽性・陰性症状を評価する尺度
EQ-5D (EuroQoL-5 dimensions):生活の質を測定する尺度
唾液中のコルチゾール・αアミラーゼ:ストレス値を評価
結果:
どちらの群も活動後にPANSSの「総合面」「ポジティブ面」ともに有意に改善していた。
しかし、AAT群でのみ、「ネガティブ面」も改善していた。
EQ-5Dにおいてはどちらの群も改善はほとんど見られなかった。
一方で、「一般的健康」の項目のみ、AAT群は健康状態の改善が見られた。
AAT群ではコルチゾールは有意な減少が見られ、αアミラーゼも減少傾向 (P=0.059) が見られた。
虎太郎所感:
患者の数は少ないですが、良い結果が顕著にみられたように思います。
生活の質に関しては大きな変動が見られなかったのは残念でした。
AAT群で、既存の治療プログラムとの差分が少数の項目でみられたことから、「犬の介在は、既存の治療と同様の効果をもたらすとともに、補填するような役割」とも推測できるのかなと思いました。
題目5「The use of animal-borne cameras to video-track the behaviour of domestic cat」
猫の行動を追跡するためアタッチメント追跡カメラの使用
Applied Animal Behaviour Science 2019
目的:
「猫による鳥類狩猟問題」を改善するための方法を探るために、猫の首輪にカメラをつけて、猫の行動パターンを定量化することが可能かどうかを確かめること。
方法:
16匹の飼い猫の首輪にキャットカメラを装着し、外を自由に歩かせた。
その際、実験者がその猫を追跡して、別のカメラで撮影を行う。
「キャットカメラ」と、「実験者が撮影したカメラ」、両者のデータを比較することで、キャットカメラの有用性を確認する。
カメラを取り付けた猫の図 ☞
論文より抜粋
結果:
記録された行動時間は127.1時間、見られた行動は36種類に分類された。
撮影された行動は、「キャットカメラ」「実験者が撮影したカメラ」の間に差は見られず、実験に参加した16匹の猫による違いも見られなかった。
虎太郎所感:
キャットカメラは、観察者自身で撮影した映像とおおきな違いは見られなかった。すなわち、この撮影方法で猫の行動観察をすることが、有益であることが示されました。
ただ、この研究では飼い猫を使って実験していました。それは、大きなバイアスになるとも考えられます (行動パターンがそもそも異なる、とかとか、、) 。
野良猫 (ノネコかな) に装着した結果を見るべきかなとは思いました。
あと、『カメラでかっ!!』と思いました(笑)。
体重の1%という、データロガー装着における動物福祉的基準は満たせているようですが、なんか邪魔そうだなーと。
もっと最新のデバイス機器なら、もっと小型のものないのでしょうかね。
題目6「Pet Ownership and the Spatial and Temporal Dimensions of Evacuation Decisions」
ペットの所有と、避難の決断の空間および時間的側面
COURTNEY N. THOMPSON, DAVID M. BROMMER, KATHLEEN SHERMAN-MORRIS
southeastern geographer, 52(3) 2012: pp. 253–266
目的:
災害発生時における、ペットを所有していることがもたらす影響を検証すること
方法:
2008年にアメリカで発生したハリケーン「グスタフ」によって州間高速道路に一時避難した183名に調査を行った。
アンケート内容は主に以下の3つ。
「避難先までの予想距離」
「避難する決定のタイミング」
「自宅での閉じ込められる期間」
結果:
どの項目においても、ペットの所有者と非所有者の間に、有意な違いは見られなかった。
しかしながら、ペット所有者の方が、ハリケーンがおよぼす被害を大きく見積もる傾向にあった。
虎太郎所感:
統計学的な有意差がみられなかったので何とも言えませんが、、
ペットという保護 (自己拡張?) 対象があることで、やはり心理面は変わるのでしょうか。
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今日も面白い題目がたくさんでした。
猫アタッチメントカメラの論文は、特に。