本の紹介
著者と書籍の情報
今回よんだ本は、伊藤計劃の「屍者の帝国」でした。
屍者の帝国 (河出文庫) (日本語) 文庫 – 2014/11/6
この本は、夭折した作家の伊藤計劃さんが、生前に残した数十枚の原稿を、円城塔さんが執筆を引き継ぐ形で作られた作品です。
兄に勧められて伊藤計劃シリーズを読み始めたのが大学生時代。
『虐殺器官』と『ハーモニー』は、非常に面白かった記憶があります。
この『屍者の帝国』もその時から知っていたのですが、何となく読むタイミングがなく、未読のままでした。
ようやく読めました。
内容
死体に疑似霊素をインストールすることで『屍者』を作り出す、という技術が発展した世界を描いた作品です。
この屍者は、人と同じ外貌を持つ一方で、明らかに人とは異なる動きをします。
できる行動の範囲も限られており、プログラムされたことを忠実にこなす、いわばロボットのような存在です。
この屍者の存在をめぐる、人とは何か、意識とは魂とは何かを問いかける、といったテーマのSF作品です。
全体の感想
前作である『虐殺器官』と『ハーモニー』と比べて、読みづらいなぁと感じてしまいました笑
マジなSFってこんな感じなんでしょうか?笑
SFは全くの素人である私にとって、読み進めるのが結構キツイものでした、、。
また、この作品は「シャーロックホームズ」「カラマーゾフの兄弟」「ダーウィンの進化論」「近代の日本史」「近代の世界史」など、幅広いテーマと絡めながら進んでいく物語でした。
もちろん、がっちりその知識がないと読めないかっていうとそうではないけど (私はダーウィンくらいしか知らないし)、知識があるとより理解が進むし、何より読んでて楽しいんだろうな~と思いました笑
「自分の知識とのコネクト」を感じると、すごく面白さが増すという現象があるので、私はその点が不利でしたね、、。教養の低さが出ました。
ただ、逆に今興味がわいてきたので、上記のコンテンツに手を出してみようかな~と思います。
….いつか。
グッと来たところ
場面・描写
やっぱり最後のシーンでした。フライデーのとこ、、、、。
あんまりいうとネタバレになるので言えませんが、最後の描写は、綴り方が素敵でした。
琴線に触れた表現
この本は、小難しい漢字を多用していました。
読み方や意味の分からない単語をこんなに調べながら読んだの、すごい久しぶりです笑
また、私がいいなぁと思った文章表現もたくさんあったので、一部抜粋してみました
P298
「そう、わからないからだ。過程がわからなければ、結果に頼るしかなくなる。これは理屈の問題じゃない。人間の理解の仕方の問題なんだ。人間は物事を物語として理解する。暗号が具体的にどんな強引な方法で解かれたかは問題じゃない。誰が解いたことにした方が面白いか、書かれているとされる内容がいかに刺激的かが重要なんだ」
人間の心理をうまく表現していて、なるほどと感じました。
P306
自由とは選択のないことだ
月並みだけど、その通り。
P359
「あんたは、生命とはなんだと思う」笑い飛ばされるかと思ったが、振り返ったバーナビーは不思議そうな顔で淡々と告げた。「性交渉によって感染する致死性の病」
この表現、一番グッときました!
よくよく思い出してみると、私、Twitterか何かで以前この文章を見たことがあって、記憶の片隅にあったんですよね。
それのせいか、一番印象に残るフレーズでした。
言葉の定義を、すごい視点から再定義する感じ、好きなんですよね。
この場面で言えば、『生命』という単語を、『病』に置き換えている感じ、めっちゃいい。クール。
P389
「筋道や枠組みをどうとっても構わないなら、理屈はどうにでもつく。おとぎ話だ。-そこまで知っていたならどうして先に言わない」「お前さんの言った通りだ。筋道なんて事実が追い付いてからようやくもっともらしく思えるもんだ。筋道が意外な物であればあるほどな。」
事実が明らかになるまでは、その過程は非論理的に感じる。過程が奇妙であればあるほどに、ねー。なるほど。
P403
もう一人彼女を造り出そうというのではない。彼女という個体は失われ、二度と決して戻らない。彼女に似たものを作り出せたとしてもそれは最早彼女ではない。おそらくは彼女と全く同じ物質的構成を持った存在でさえ、彼女ではありえないだろうと思う。ことは魂の問題であり、物質の問題ではないとわたしは思う。
星の王子様的な感じ。
『いちばんたいせつなことは、目に見えない』
星の王子さま (新潮文庫) (日本語) 文庫 – 2006/3/28
サン=テグジュペリ
P450
「辞書がそれ自体で意味を持つかね。ただの循環があるだけだ。ある言葉が他の言葉を定義し、その言葉は別の言葉に定義されている。辞書という世界の中では、本質から切り離された循環が永遠に空疎に回り続ける。人間が魂と呼ぶのはその循環の中の流れ、存在の大いなる循環だ。起源は原理的に存在しない。鶏が卵を産む。卵が鶏を生む。原初の卵は存在したことがなく、宇宙の開闢を告げた鶏はいない。過去へと旅した男が、自分の祖先と子を設ける。始原はどこだね。それは人間の思考を超えた世界にあり、その通路は鎖されている」
「卵が先か鶏が先か」問題を、「辞書」で表現している感じがすごく秀逸に感じました。
言葉が空疎に循環する、ってすごく面白い表現。
書籍の紹介文章
幼少期、よく死を想像し、恐怖し、眠れなくなったことがある。
人は、死んだらどこにいくのだろう。
私の意識は、魂は、どこにいくのだろう。
本書では、死者を屍者としてよみがえらせる技術『屍者化』が発展した世界が描かれる。
死者とは一線を画し、けれども決して生者ではない。
語らない。自律しない。そんな存在が屍者。
死者と生者を決定的に分かつ違いは、僅か21gの魂。
この魂が欠落した死者に疑似霊素を組み込むことで、屍者は生まれる。
そんな世界である日、生者に限りなく近い屍者の存在が確認される。
彼らは屍者?生者?
そもそも、屍者と生者を分かつものは何なのだろうか。
自分の周囲の人間が『屍者でない』とどうやったら証明できる。自分が『屍者でない』とどうやったら認識できる。
生者を生者たらしめる魂は、意識は、どこにある。どんな構成物質により在る。
人間の魂とは何か、その真実に迫る一冊。