もくじ
■文献情報
〇題目
Effects of music on behavior and physiological stress response of domestic cats in a veterinary clinic.
〇著者
Hampton, A., Ford, A., Cox, R. E., Liu, C., & Koh, R.
〇雑誌
Journal of Feline Medicine and Surgery, (2020). 22(2), 122–128. https://doi.org/10.1177/1098612X19828131
■研究概要 (序論~方法)
〇背景
音楽は、ヒト医療において、ストレスの低減といった利益をもたらすことが知られている。
犬やタマリンなどの動物に音楽を聞かせることで、彼らのストレスが緩和することも明らかになっている。
さらに、Snowdon と Teie は2015年に、「猫は家庭内において『猫の音声・好きなテンポ・通常発声周波数などを基に作成された猫向けの音楽』を好む」と結論付けた。
Snowdon CT, Teie D and Savage M. Cats prefer species-appropriate music. Appl Anim Behav Sci 2015; 166: 106–111.
しかしながら、医療現場において、この猫向けの音楽が効果を発揮するかは調べられていない。
〇目的
猫向けの音楽を聞かせることで、動物病院で診察中の猫のストレスが軽減するかどうかを検証すること
〇被験者情報
1歳から10歳の猫25匹
〇実験・調査方法
診療中、および診療前後の猫のストレス状態を、以下の3つの条件で比較。
「無音 条件」
「クラシック音楽を聞かせた 条件」
「猫向けの音楽を聞かせた 条件」
猫向けの音楽は、上述のTeieによって作成された「Scooter Bere’s Aria」という音楽が用いられた。
YouTubeでも音源が聞けるので、どうぞ。独特な感じの音楽です。
〇ストレス評価方法
ストレスの評価方法は主に3つ。
キャットストレススコア cat stress scores (CSSs)
→ 猫の体の状態 (耳・ヒゲ・瞳孔・四肢の状態などなど) といった、行動学的な面のストレス度合いを評価する
ハンドリングスケールスコア handling scale scores (HSs)
→ 診療中の猫の、ハンドラー (獣医師など) に対する反応といった、行動学的な面のストレス度合いを評価する
好中球 リンパ球 比 neutrophil:lymphocyte ratios (NLRs)
→ 体内の炎症度合いの指標であり、生理学的な面のストレス度合いを評価する
上記の指標はどれも、数値が低いほど、ストレスが低いと考えられる。
■研究概要 (結果~考察)
〇メインで得られた結果
「猫向けの音楽を聞かせた 条件」の時、診療中および診療後の猫のCSSが減少した。
また、診療中のHSsも、「猫向けの音楽を聞かせた 条件」でのみ減少した。
〇面白い・特筆すべき結果
NLRsは、条件間で違いは見られなかった。
〇筆者の意見・主張
生理学的なストレス数値に変動は見られないものの、行動学的なストレスの低下は見られた。
したがって、猫向けの音楽は、動物病院での診療時の猫のストレスを軽減し、治療の質を高めることに繋がると考えられる。
■感想と転用
〇 動物病院の話から一般家庭に転用するには?
この研究はあくまで「病院での診察時」という条件です。もともと、獣医療の猫のストレス問題を軽減することが目的なので当然ですね。
一方で、じゃあこの研究の結果を私たちが応用するとしたら、どうすればいいでしょう?
猫がストレスを受けるであろう状況下で、「猫向けの音楽」を聞かせることで、日々の猫ちゃんのストレスを少しでも和らげることが出来るかもしれません。
例えば、「家に見知らぬ人が入ってくる」際におびえる様子を見せる猫ちゃんであれば、猫ちゃんの隠れた場所に向けて音楽を流しておけば、ストレスは和らぐかもしれません。
〇 何で和らぐのか?
考察の部分でも、ハッキリとメカニズムは示されていないっぽいです。 (別にメカニズムを探る研究ではないですしね)
ただ、序論の一部分では、「猫向けの音楽は、『猫の情動中枢が発達する、出産直後の授乳期で発せられる、猫固有のゴロゴロ音のような音声』に基づいて作成されている」みたいに書かれています。
「マックシェイクのストローの幅は、お母さんからお乳をもらう時の触感に合わせている」なんていう話を聞いたとこありますが、それと同じような原理ですかね。
安心安全の源は母であり、授乳期のコンディションを模したものが人を安定へと導くのでしょうかね~。
この猫向けの音楽を作った人の原論文も、今度レビューしたいと思います。