街を歩けば、どこにでもいる野良猫。猫の環境適応能力は凄まじく、世界各国、各所に存在しています。
野良猫は見ているだけならかわいいですが、多くの問題を発生させることは否定できません。野良猫の管理、特に個体数の推定は、問題を解決する第一歩となりますが、推定にはかなりの労力がかかります。
今日紹介する論文では、「デンマークの野良猫の数はどのくらいなのか?」という疑問を、アンケート調査とGPS調査で解決したようです。
もくじ
文献の情報
Estimating the Population of Unowned Free-Ranging Domestic Cats in Denmark Using a Combination of Questionnaires and GPS Tracking
アンケートとGPS追跡を組み合わせることによるデンマークの野良猫の個体数推定
Nielsen, H. B., Jensen, H. A., Meilby, H., Nielsen, S. S., & Sandøe, P. (2022). Estimating the Population of Unowned Free-Ranging Domestic Cats in Denmark Using a Combination of Questionnaires and GPS Tracking. Animals, 12(7), 920.
背景・目的
デンマークでは、約50万頭が生息しているといわれる野良猫。野良猫に対する「モラル・パニック」が問題視されている。
モラル・パニック(moral panic)とは、「ある時点の社会秩序への脅威とみなされた特定のグループの人々に対して発せられる、多数の人々により表出される激しい感情」と定義される[1]。より広い定義では、以前から存在する「出来事、状態、人物や集団」が、最近になってから「社会の価値観や利益に対する脅威として定義されなおされる」ことと言える[2]。ーWikipediaより引用
しかし、実際の個体数は正確に把握されておらず不明瞭である。個体数の推定には、調査地域の環境等に左右されたり、「そもそも野良猫?飼育されている猫?」と言った分類の難しさなど、方法論的に問題が多い。
したがって本研究では、従来のアンケート調査と並行して、GPSによる縄張り範囲の特定を地域ごとに行うことで、より正確な個体数の推定を試みた。
材料と方法
調査対象
7の地域と、ランダムに選ばれた94の地区に住む人々
調査計画・流れ
アンケート調査では、港地域、都市部、農村部、森林部、などの生息区域に分類され、それぞれ独自のアンケート調査票を作成して実施。
GPS調査では、各地域の家庭猫にロガーを装着し、合計59頭の猫から行動範囲データを取得した。
結果・考察
個体数は8.9万頭であり、50万頭よりもかなり小さく、モラル・パニックは杞憂であると考えられる
文献に対する感想・内容の転用 (抽象化)
次の課題は?
個体数を算出する方法は詳しく知らなかったので、アンケートを用いた方法が各国で行われていることが知れて勉強になった。
また、GPSを用いて猫の行動範囲を算出して、それをアンケート結果と組み合わせて個体数を正確に推定するというアイデアが賢いですね。
地域ごとにアンケートの種類やアプローチ方法を変えるなど、労力はかかりそうですが、その分データの信頼性は高そうです。日本でも手法を応用できそうな気がします。
どんなことが言える?
この50万頭という最初の推定は、1987年にデンマークの行政が「動物福祉ホワイトペーパー」にて公表したものだそうです。その時点でも「正しい数値は不明」と前置きが書かれていたものの、「50万頭は居るだろう」と記載されてしまったようです。
もちろん、この論文の調査結果もあくまで推定ですが、キチンとしたプロセスを経ないまま算出された数値を用いることの悪影響がよく分かる事例でした。
一方で、たしかに、「何頭いるか分からんけど・・」という前置きで話が始まっても、危機感や認識は薄くなってしまうから、何かしら数値を付けることにも意味があるんだろうなとも思う。この調査も物凄い労力がかかるだろうし。
いかがだったでしょうか?
デンマークの国土面積は4,292ヘクタールで、日本は37,797ヘクタールで約9倍の面積になります。(グローバルノート – 国際統計・国別統計専門サイトより引用)
デンマーク野良猫の数が9万頭であるなら、超単純計算では日本は約80万頭ほど?私はあまり多いとは思いませんが、みなさんはどうでしょう?多いと感じますか?
いつか研究者がみなさんにアンケートを取りに伺うかもしれないので、ぜひ意識的に野良猫を観察してみてください。